FIREや退職後の生活費を、積み上げた資産の取り崩しでまかなう段階に入ると、多くの人が「どの口座から先に売るか」で迷うと言われています。新NISA、特定口座、人によっては旧NISA(一般NISA・つみたてNISA)と、複数の口座に資産が分かれているためです。
同じ金額を引き出すのでも、どの口座から崩すかによって、その年に払う税金や、将来使える非課税枠が変わってきます。 この記事では「いくら取り崩すか」ではなく、「どの口座から取り崩すか」という優先順位そのものに絞り、その判断フローを制度の仕組みから整理します。
具体的な税額の2パターン比較や、資産が何年もつかの資産寿命シミュレーションは別記事で扱っています。ここでは、それらの前提になる「崩す順番の決め方」を扱います。


※本記事は制度の一般的な仕組みを解説するものであり、特定の証券会社・金融商品を推奨するものではありません。制度内容は2024年開始の新NISA制度を前提としています。税務の個別判断は、最新の情報を金融庁・国税庁等の公式情報でご確認のうえ、必要に応じて税理士等の専門家にご相談ください。(最終更新: 2026年7月)
結論:税制優遇の「弱い口座」から先に崩すのが基本形
細かい例外を後回しにして、一般的に語られる取り崩しの優先順位を先に示します。おおむね次の順番が、税制優遇を最後まで使い切りやすい形とされています。
取り崩しの優先順位(基本形)
- 特定口座の「含み損」銘柄・現金クッション(税金がかからない、むしろ損益通算に使える)
- 特定口座の「含み益」銘柄(利益に約20.315%課税されるが、非課税枠を消費しない)
- 旧NISA(非課税期間に期限があるもの)(期限が近い順に。放置すると課税口座に移る)
- 新NISA(非課税・無期限・売っても翌年に枠が復活する“最後の砦”)
考え方の軸はシンプルで、「優遇の弱い(=課税される、または期限がある)口座から先に使い、優遇の強い口座を後に残す」 という一点です。以下、なぜこの順番になるのかを口座ごとに分解していきます。
なぜ「新NISAを最後」に回すのか
順番を決める前に、それぞれの口座がどんな税制上の性格を持っているかを整理します。ここが判断の土台になります。
| 口座 | 利益への課税 | 非課税期間 | 売却後の枠 | 損益通算 |
|---|---|---|---|---|
| 特定口座(課税口座) | 約20.315%課税 | ― | ― | 可能 |
| 旧NISA(一般・つみたて) | 非課税 | 期間に上限あり | 復活しない | 不可 |
| 新NISA | 非課税 | 無期限 | 翌年に簿価ベースで復活 | 不可 |
※特定口座の税率20.315%は、所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計とされています(出典: 国税庁)。
この表から、新NISAが持つ2つの特徴が「最後に回すべき」という結論を導きます。
特徴1:非課税期間が無期限
旧NISAの一般NISAは非課税期間が5年、つみたてNISAは20年と上限がありましたが、新NISAには保有期間の上限がありません。つまり、急いで売って非課税メリットを確定させる必要がない口座だと言えます。長く持つほど、非課税で運用益が積み上がる余地を残せるという見方があります。
特徴2:売却すると翌年に「簿価ベース」で枠が復活する
新NISAでは、保有商品を売却すると、その商品の取得価額(簿価)分の非課税枠が、翌年に再利用できるようになるとされています。ここが判断に効いてきます。
たとえば取得価額100万円・時価150万円に育った商品を売却した場合、翌年に復活するのは値上がり後の150万円ではなく、取得時の100万円分です。つまり一度大きく育てた枠を売って現金化してしまうと、その値上がり分を非課税で持つポジションは失われ、買い直すとしても新しい取得価額から積み上げ直すことになります。この性質から、「新NISAは最後まで温存し、他に崩せる資産があるうちは手をつけない方が、非課税の恩恵を長く受けやすい」と説明されることが多いようです。
ステップ1:まず特定口座の「含み損」と現金から
取り崩しの最初に検討したいのが、税金がかからない、あるいは税金を減らせる資産です。優遇枠を消費しないどころか、税負担を軽くできる可能性がある順に使います。
現金・生活防衛資金
そもそも運用に回していない現金があれば、売却益も課税も発生しません。相場下落局面で資産を売りたくないときのクッションとしても機能するため、取り崩しの初手として現金から使うという考え方があります。
特定口座内の「含み損」銘柄
ここが実務的な分岐点です。特定口座(課税口座)では、同じ年の中で、ある銘柄の売却損を、別の銘柄の売却益と相殺できる(損益通算)とされています。
たとえば架空のモデルで考えます(以下はいずれも仕組み説明のための架空モデルです)。
Aさん(架空モデル) が生活費のために特定口座から資産を取り崩す場面(X銘柄:50万円の含み益/Y銘柄:30万円の含み損)を考えます。X銘柄だけを売れば、50万円の利益に約20.315%が課税され、税額はおよそ10万円程度になります。一方、同じ年にY銘柄(含み損30万円)も一緒に売却すると、利益と損失が相殺され、課税対象は差額の20万円まで圧縮されます。結果として、その年の税額は50万円に課税された場合よりも軽くなる、という関係にあります。
このように、含み損を抱えた銘柄は「損切り」であると同時に、同年の利益にかかる税金を減らす材料にもなり得ます。 さらに、その年に相殺しきれなかった譲渡損失は、確定申告をすることで翌年以降最長3年間にわたって繰り越せる(繰越控除)とされています(出典: 国税庁)。
「不要になった含み損銘柄を、利益確定と同じ年にぶつける」——この判断は、取り崩し期に限らず課税口座を持つ人が押さえておきたい実務ポイントの一つとされています。
※NISA口座(新・旧とも)の中で出た損失は、税制上「ないもの」として扱われ、特定口座の利益との損益通算はできないとされています。損益通算・繰越控除が使えるのは課税口座(特定口座・一般口座)の中の話である点に注意が必要です。
ステップ2:特定口座の「含み益」銘柄
含み損の活用と現金クッションを使い切ってもなお取り崩しが必要な場合、次に検討されるのが特定口座の含み益銘柄です。
この段階では利益に約20.315%の課税が発生しますが、それでもNISAより先に崩す理由は、特定口座には「非課税枠」という有限の資源がそもそも存在しないからです。特定口座をいくら売っても、失われる将来の非課税メリットはありません。一方、NISAを先に売ると、後述する非課税の恩恵を手放すことになります。
この段階での実務的な工夫として、次のような点が語られることがあります。
- 利益額を年またぎで分散させる:一度に大きな利益を確定させるより、複数年に分けて売却することで、その年ごとの課税額をならす考え方(ただし相場変動リスクは残るため一概に有利とは限りません)
- 取得価額の高い(=含み益の小さい)銘柄から売る:同じ売却額でも、利益部分が小さいほど課税額は小さくなるため、含み益の薄い銘柄を先に充てるという整理の仕方
いずれも「その年の課税所得をどうコントロールするか」という視点であり、絶対的な正解があるわけではないとされています。
源泉徴収の有無による申告要否の違い
特定口座には「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」があり、この違いも取り崩し実務に影響すると言われています。源泉徴収ありの口座では、売却のたびに証券会社が税金を天引きして納税してくれるため、原則として確定申告が不要とされています。一方、源泉徴収なしの口座や、複数口座間で損益通算をしたい場合は、確定申告が必要になるとされています。取り崩しの都度、課税関係をどこまで自分で管理する必要があるかは、この源泉徴収区分によって変わってくる点も、実務上あわせて確認しておきたいポイントです。
ステップ3:期限のある「旧NISA」を取り崩しに組み込む
2023年末までの旧制度である一般NISA・つみたてNISAで買った資産を持っている場合、取り崩しの順番の判断がやや複雑になります。ポイントは旧NISAには非課税期間の「期限」があることです。
- 一般NISA:非課税期間は購入年から5年とされています。2023年に購入した分は、2027年末まで非課税で保有できる計算になります。
- つみたてNISA:非課税期間は購入年から20年とされています。
なお、旧制度では一般NISAとつみたてNISAは同一年内での併用ができなかったとされ、どちらか一方を選択して利用する仕組みだった点も、保有資産を棚卸しする際の前提として押さえておきたいところです。
旧NISAが新NISAと決定的に違うのは、非課税期間が終わると、その資産は課税口座(特定口座等)に払い出されるという点です。しかも、新NISAへ移し替える「ロールオーバー」はできないとされています。
ここが判断に効いてきます。払い出された後の資産は、払い出し時点の時価が新たな取得価額になります。つまり、非課税期間中に得た値上がり分はいったん非課税で確定しますが、その後の値上がりは通常どおり課税対象になります。
この性質から、旧NISAについては次のような実務ロジックが語られています。
「非課税期間の終了が近い順に、取り崩しや売却の検討対象にする。特に一般NISAは残り期間が短いものから、期限内に非課税メリットを享受する形で使う(または課税口座に払い出される前に方針を決める)ことが多い」
新NISAが「無期限だから最後まで温存できる」のに対し、旧NISAは期限という制約があるぶん、新NISAより先に判断のテーブルに乗せるべき、という整理になります。旧NISAを保有している人にとっては、「新NISAと旧NISAのどちらから崩すか」ではなく、「期限のある旧NISAを先に、期限のない新NISAを後に」と考えるのが基本形とされています。
ステップ4:最後に「新NISA」——それでも例外はある
ここまでの資産を使い切って、なお取り崩しが必要になったとき、最後に手をつけるのが新NISAです。理由は繰り返しになりますが、「非課税・無期限・翌年に簿価で枠が復活する」という、最も優遇の強い口座だからです。温存できるだけ温存する、という位置づけになります。
ただし、実務では「常に新NISAを最後に」が唯一の正解とは限らない、という点も押さえておきたいところです。次のような例外的な考え方が語られています。
- 相場が大きく下落した局面:含み益のある特定口座を無理に売ると、下がった価格で利益確定してしまう可能性があります。こうした局面では、現金クッションや、値動きの小さい資産から充てる判断が優先されることがあります。暴落時に取り崩しをどう調整するかの具体的なルールは、別記事で過去の暴落データとあわせて整理しています。
- 新NISAの枠復活を積極的に使う戦略:新NISAは売却すれば翌年に枠が復活するため、「一時的に取り崩し→相場や資金状況が回復したら翌年また買い直す」という柔軟な使い方もあり得ます。ただしこの場合も、復活するのは簿価ベースである点は変わりません。
- 相続・出口の全体設計:家族構成や年齢によっては、税負担だけでなく相続時の扱いまで含めて口座の使い方を考える必要があるとされ、この記事の範囲を超える個別性が出てきます。
こうした例外があるため、優先順位はあくまで「基本形」であり、自分の資産構成・相場環境・ライフプランに応じて調整するもの、という前提で捉えるのが妥当だと考えられます。

取り崩し順を決める前のチェックリスト
最後に、実際に「どの口座から崩すか」を判断する前に確認したい項目を、フロー的に整理します。
□ 1. すぐ使える現金・生活防衛資金は残っているか
→ 運用資産を売る前に、課税の発生しない現金から使えないかを確認する。
□ 2. 特定口座に「含み損」の銘柄はないか
→ あれば、利益確定と同じ年にぶつけて損益通算に使えないかを検討する。
□ 3. 特定口座の「含み益」銘柄で、課税を抑えて売れるものはどれか
→ 含み益の小さい銘柄・年をまたいだ分散など、その年の課税額をコントロールできないかを確認する。
□ 4. 旧NISA(一般・つみたて)を持っていないか。非課税期間の残りは何年か
→ 期限が近いものから優先的に判断のテーブルに乗せる。新NISAより先に。
□ 5. 新NISAは「最後の砦」として温存できているか
→ 無期限・簿価で枠復活という特徴を踏まえ、他に崩せる資産があるうちは手をつけない方向で検討する。
□ 6. 相場が大きく下落していないか/個別の事情はないか
→ 下落局面や相続・年齢などの個別事情があれば、基本形を機械的に当てはめず調整する。
まとめ:崩す順番は「優遇の弱い口座から」が軸
新NISAと特定口座のどちらから取り崩すか、という問いへの実務的な答えは、「税制優遇の弱い口座(課税される特定口座、期限のある旧NISA)から先に使い、優遇の強い新NISAを最後に残す」という優先順位に集約されると言えます。
- 特定口座は課税されるが非課税枠を消費しない → 先に使う(含み損があれば損益通算も活用)
- 旧NISAは非課税だが期限がある → 期限が近い順に、新NISAより先に
- 新NISAは非課税・無期限・簿価で枠が復活する → 最後まで温存
ただし、これはあくまで税制上の性格から導いた基本形です。相場環境や、家族構成・年齢といった個別事情によって最適な順番は変わり得ます。金額の試算そのものは別記事のシミュレーションを、最終的な個別判断は最新の公式情報や専門家への相談を、あわせてご確認いただくことをおすすめします。
(最終更新: 2026年7月/制度内容は今後の税制改正等により変更される可能性があります)



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