最終更新日: 2026年7月14日/制度情報は金融庁「新しいNISA」の公表内容に基づく一般的な解説です。個別の税務判断は税理士・金融機関等の専門家にご確認ください。
新NISAと特定口座(課税口座)の両方に資産を持つ人が、リタイア後や取り崩しフェーズに入ったとき、多くの人が迷うのが「どちらの口座から先に取り崩すべきか」という問題です。
インターネット上では「NISAは非課税だから最後まで残すべき」といった一般論をよく見かけますが、実際には含み益の状況や生活防衛資金との兼ね合いによって最適解は変わります。この記事では、制度の基本を整理したうえで、具体的な税額シミュレーションを使って「自分の場合はどう考えればよいか」を判断できるように解説します。
なお、本記事は特定の証券会社や商品を推奨するものではなく、公開されている制度情報にもとづく中立的な解説です。
先に結論:一般的には「特定口座から先」が税効率の面で有利とされる
細かい前提は後述しますが、結論の方向性を先に示します。
- 税負担だけを見れば、含み益のある特定口座から先に取り崩し、非課税の新NISAをできるだけ長く温存する方が、生涯の税額を抑えやすいと一般に言われています。
- ただしこれは「特定口座にもある程度の含み益がある」「当面の生活防衛資金が別に確保されている」といった前提のうえでの話です。
- 特定口座に含み損がある場合や、新NISAの非課税枠を早めに空けて再利用したい場合など、順番が逆転しうるケースも存在します。
つまり「絶対にこの順番が正しい」という唯一解はなく、いくつかの判断軸に自分の状況を当てはめて決めるのが現実的です。以下でその判断軸と、根拠となる試算を順に見ていきます。
前提として押さえたい新NISA制度の基本
取り崩しの順番を考える前に、新NISA(2024年開始)の仕組みを簡潔に確認します。ここを理解しておくと、後半のシミュレーションの意味がつかみやすくなります。
非課税保有限度額と年間投資枠
金融庁が公表している新NISA制度の内容によると、主な枠組みは次のとおりです。
- 非課税保有限度額(生涯の総枠)は1,800万円。このうち成長投資枠として使えるのは最大1,200万円までとされています。
- 年間投資枠は、つみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円、併用した場合は合計で年間360万円です。
- 非課税で保有できる期間は無期限とされており、旧制度(つみたてNISA20年・一般NISA5年)のような期限がなくなりました。
保有期間が無期限になったことは、取り崩し戦略に大きく影響します。期限に追われて売る必要がないため、「非課税のまま運用を続ける」という選択が取りやすくなったからです。
売却枠が翌年に復活する仕組み
新NISAのもう一つの特徴が、売却した分の非課税枠が翌年以降に復活する点です。
金融庁の説明によれば、保有商品を売却した場合、翌年以降に、売却した商品の簿価(取得金額)分だけ非課税投資枠が復活し、再利用が可能になります。ここで復活するのは「売却時の時価」ではなく「取得金額(簿価)」である点に注意が必要です。
たとえば取得価額100万円のものが値上がりして150万円になり、それを売却した場合、翌年に復活する枠は150万円ではなく100万円分です。この仕組みは、取り崩しフェーズだけでなく、「一度売って別の商品に入れ替える」といった使い方にも関わってきます。
特定口座(課税口座)との決定的な違い
新NISAと並んで多くの人が持っているのが特定口座(課税口座)です。両者の最大の違いは課税の有無です。
- 新NISA:口座内で得た売却益(譲渡益)・配当は非課税。取り崩しても税金はかかりません。
- 特定口座:売却益に対して20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)が課税されます。
この「20.315%」という税率が、取り崩しの順番を考えるうえでの中心的な要素になります。同じ金額を取り崩すのでも、どちらの口座から出すかで手取りが変わるためです。
なぜ「取り崩す順番」で手取りと生涯税額が変わるのか
取り崩しの順番が問題になる理由は、大きく2つあります。
1つ目は、取り崩し時点の課税です。 特定口座から取り崩すと、含み益の部分に20.315%が課税されます。一方で新NISAからの取り崩しは非課税です。単年で見れば、新NISAから取り崩す方が手元に残るお金は多くなります。
2つ目は、口座に残したお金の「その後の運用益への課税」です。 ここが見落とされがちなポイントです。特定口座に置いたままのお金は、値上がりするたびに含み益が増え、いずれ売るときに課税されます。対して新NISAに残したお金は、いくら値上がりしても非課税のまま運用を続けられます。
この2つは方向が逆に働きます。「単年の課税」だけを見ると新NISAを先に崩したくなりますが、「残したお金の運用益への課税」まで含めて生涯で考えると、非課税の新NISAをできるだけ長く残す方が有利になりやすい——これが「特定口座から先」が定石とされる理由です。次の章で、この関係を数字で確認します。
取り崩し順番を決める4つの判断軸
シミュレーションに入る前に、判断の物差しとなる4つの軸を整理します。自分がどの軸を重視するかで、結論が変わってきます。口座単位での優先順位を段階的に決めたい場合は、新NISAと特定口座のどちらから取り崩すかを判断フローで整理した記事もあわせて参考になります。

軸①:非課税メリットの温存
新NISAは運用益が非課税で、保有期間も無期限です。運用を長く続けるほど非課税のメリットは複利的に大きくなります。この観点だけで言えば、新NISAは最後まで残し、課税される特定口座から先に取り崩すのが合理的です。
軸②:含み益・含み損の状況
特定口座の取り崩しで課税されるのは「含み益の部分」だけです。したがって、
- 含み益が大きい銘柄を売ると税負担も大きくなります。
- 含み損が出ている銘柄なら、売っても譲渡益が発生せず課税されません。むしろ売却で確定した損失は、同じ年の他の譲渡益と相殺(損益通算)でき、控除しきれない分は翌年以降へ繰り越せる制度もあります。
つまり、特定口座の中でも「含み損のものから先に」といった細かい判断が生まれます。
軸③:生活防衛資金との兼ね合い
税効率を追求するあまり、暴落局面で無理に投資商品を売ってしまうのは避けたいところです。生活費の数か月〜2年分程度を現金(生活防衛資金)で確保しておき、相場が大きく下がった年はそこから取り崩す、という考え方が一般的に推奨されています。取り崩し順番の議論は、この現金クッションがある前提で成り立ちます。暴落局面で取り崩しそのものを止めるべきかどうかの具体的な調整ルールは、FIREの出口戦略として暴落時の取り崩し判断を過去データから整理した記事で詳しく解説しています。

軸④:非課税枠の再利用を活かすか
前述のとおり、新NISAは売却した簿価分の枠が翌年復活します。取り崩しながらも「値上がりが期待できる別の資産に入れ替えたい」「一時的に現金化して再投資したい」といった柔軟な運用を重視する場合は、あえて新NISA内で売買を回す判断もあり得ます。
税額シミュレーション:順番でどれだけ差が出るか
ここからが本記事の核心です。具体的な数字で、取り崩し順番による差を確認します。
シミュレーションはあくまで一定の前提を置いた「一つの試算例」です。実際の税額は保有商品の含み益率・運用成績・その年の他の所得などによって変わるため、参考値としてご覧ください。
共通の前提条件
説明用のモデルとして、Aさん(60歳・会社員をリタイアした想定) のケースを設定します。
- 新NISA口座:1,000万円(非課税)
- 特定口座:1,000万円(うち取得価額700万円、含み益300万円=含み益率30%)
- 毎年の生活資金として、手取りで200万円を取り崩す
- 取り崩し後の残高は、両口座とも年3%で運用を継続すると仮定
- 特定口座の税率は20.315%
まず単年で見ると「新NISAが有利」に見える
1年目に手取り200万円を用意する場合を比較します。
特定口座から取り崩す場合
含み益率30%の資産から手取り200万円を得るには、税金分を上乗せして約213万円を売却する必要があります。売却益は約64万円、これに20.315%が課税され、税額は約13万円です。
新NISAから取り崩す場合
非課税のため、200万円を売却すれば手取りもそのまま200万円。税額は0円です。なぜ非課税で0円になるのか、その仕組みと特定口座との金額差は新NISAの取り崩しにかかる税金を掘り下げた記事で詳しく試算しています。

この1年だけを切り取ると、新NISAから取り崩す方が約13万円お得に見えます。多くの「NISAは最後まで残すな」という主張とは逆の結果です。しかし、これは「残したお金のその後」を無視した見方にすぎません。
10年間の累計で見ると結論が逆転する
同じ前提で、10年間・毎年手取り200万円ずつ取り崩し続けた場合の累計税額を試算すると、次のようになります(残高は毎年3%で運用継続、特定口座の含み益は運用に伴い増加していくものとして計算)。
| 取り崩しの順番 | 10年間の累計税額 | 10年後の総資産 |
|---|---|---|
| パターンA:特定口座 → 新NISA の順 | 約73万円 | 約234万円 |
| パターンB:新NISA → 特定口座 の順 | 約90万円 | 約228万円 |
同じ生活費(毎年手取り200万円)をまかなっているにもかかわらず、特定口座から先に取り崩したパターンAの方が、累計税額で約17万円少なくなりました。10年後に手元に残る資産もパターンAの方がやや多い結果です。
なぜこの差が生まれるのか
パターンBのように新NISAを先に使い切ると、課税される特定口座のお金が長く運用に残り続け、その間に増えた含み益にも最終的に課税されることになります。一方パターンAは、課税対象である特定口座を先に減らし、非課税の新NISAを後半まで運用に回すため、課税される運用益そのものが小さくなります。
単年では新NISA先行が有利に見えても、「残したお金の運用益に将来かかる税金」まで含めると、非課税枠を長く残す方が生涯の税負担は軽くなりやすい——これが数字で確認できる結論です。
ただし順番が逆転しうる例外ケース
「特定口座から先」はあくまで一般的な目安であり、次のような状況では判断が変わり得ます。断定を避け、それぞれの考え方を示します。
特定口座に含み損があるとき
特定口座の資産が取得時より値下がりしている場合、売っても譲渡益が出ないため課税されません。それどころか、確定した損失は同じ年の他の譲渡益や配当と損益通算でき、控除しきれない分を翌年以降に繰り越せる制度もあります。含み損を活用したいなら、あえて特定口座を先に整理する判断が生まれます。損益通算・繰越控除の適用条件は複雑なため、実行前に税務の専門家や証券会社の案内を確認することが望ましいでしょう。
新NISAの非課税枠を早く空けたいとき
「今保有している商品を、より非課税メリットを活かせる資産に入れ替えたい」といった場合は、新NISA内で売却して枠の再利用を狙う選択もあります。ただし復活する枠は簿価分であり、かつ年間投資枠(合計360万円)の制約も受けるため、すぐに同額を戻せるとは限らない点に注意が必要です。
相続や贈与を視野に入れるとき
資産を次世代に残すことを考える場合、税効率だけでなく相続時の扱いも論点になります。この領域は個人の資産構成や家族構成によって最適解が大きく変わるため、一般論で語るのは適切ではありません。相続を含めた設計が必要な場合は、税理士等の専門家に相談することが推奨されます。
状況別・取り崩し順番の考え方まとめ
ここまでの内容を、判断しやすいように整理します。あくまで方向性の目安であり、最終的な判断は自身の資産状況にもとづいて行ってください。
- 特定口座に含み益があり、生活防衛資金も確保できている → 税効率の面では「特定口座から先に取り崩し、新NISAを温存」が有力な選択肢とされています。
- 特定口座に含み損がある → 損益通算・繰越控除の活用余地があるため、特定口座を先に整理する判断が合理的になり得ます。
- 相場が大きく下落した年 → 無理に投資商品を売らず、確保しておいた生活防衛資金(現金)から取り崩す考え方が一般的です。
- 資産の入れ替えや相続を重視する → 税額の多寡だけでなく、非課税枠の再利用や相続時の扱いも含めた個別設計が必要になります。
まとめ
新NISAと特定口座の取り崩し順番について、要点を振り返ります。
- 新NISA(2024年開始)は非課税保有限度額1,800万円・保有期間無期限で、取り崩しても課税されない。一方で特定口座の売却益には20.315%が課税される。
- 単年の税額だけを見ると新NISAから取り崩す方が有利に見えるが、「残したお金の運用益への課税」まで含めた生涯ベースでは、含み益のある特定口座から先に取り崩し、非課税の新NISAを温存する方が税効率が良くなりやすい。
- 今回の試算例では、10年間で累計税額が約17万円変わる結果となった。
- ただし含み損の活用・非課税枠の再利用・相続などの事情によっては順番が逆転しうる。唯一の正解はなく、判断軸に自分の状況を当てはめて決めることが重要。
税制は改正される可能性があり、個別の状況によって最適な取り崩し方は異なります。実際の取り崩しを実行する前には、最新の制度情報を確認し、必要に応じて税理士やファイナンシャル・プランナー等の専門家に相談することをおすすめします。
出典・免責事項
・新NISAの制度内容(非課税保有限度額・年間投資枠・非課税期間・売却枠の復活)や特定口座の税率20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%。復興特別所得税は現行制度にもとづく)は、金融庁「新しいNISA」の公表情報にもとづく一般的な内容です。
・本記事のシミュレーションは一定の前提を置いた試算例であり運用成果や税額を保証するものではなく、特定の金融商品・証券会社を推奨するものでもありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。



コメント