FIRA60とは?60歳でリタイアする設計とサイドFIREとの違い

「FIRE」という言葉を調べていると、もう一つの選択肢に出会うことがあります。「FIRA60」です。

Financial Independence, Retire Around 60——60歳前後で経済的自立を達成し、リタイアする。FIREが「できるだけ早く辞める」なら、FIRA60は「60歳まで働いて、そこで辞める」という設計です。

私は40代でサイドFIREを選び、今は週3日のフリーランスで暮らしています。FIRA60という選択肢を知ったとき、「これは40代の自分には合わないが、考え方としては理にかなっている」と感じました。

「自分の状況にはどちらが合うか」を考える材料としてまとめました。

目次

FIRA60とは何か——榊原正幸が提唱した「60歳で辞める」設計

FIRA60は、元青山学院大学大学院教授の榊原正幸氏が提唱した概念です。著書『60歳までに「お金の自由」を手に入れる!』(PHPビジネス新書)で詳しく解説されています。

FIREが「Financial Independence, Retire Early(経済的自立と早期リタイア)」であるのに対し、FIRA60は「Financial Independence, Retire Around 60(経済的自立と60歳前後のリタイア)」です。

2つの違いは、リタイアの時期だけではありません。

FIREは「できるだけ早く辞める」ことを前提に、生活費の25倍(4%ルール)の資産を作ることを目指します。一方、FIRA60は「60歳まで働くことを前提に、公的年金と資産収入を組み合わせてリタイア後の生活を設計する」考え方です。

榊原氏自身、42歳時点で貯金ゼロだったところから独自の株式投資で資産を築き、定年までの任期を9年残して自主退職しています。「FIREのように30代・40代で辞めるのではなく、60歳前後まで働きながら着実に準備する」——これがFIRA60の根幹にある考え方です。

FIREに対して「早期すぎて現実感がない」と感じている人が多い中で、FIRA60が注目されているのは、日本の社会制度——特に公的年金——との相性が良い点にあります。

FIRA60に必要な資金——年金を組み込んだ計算の構造

FIRA60の必要資金は、FIREとは計算の構造が違います。

FIREの「4%ルール」は、毎年資産の4%以内で取り崩せば30年以上資産が尽きない可能性が高い、というトリニティスタディの研究に基づいています。月15万円の生活費なら年間180万円、その25倍で4,500万円が目安です。

FIRA60は、この計算に「年金収入」を組み込みます。

FIRA60とFIREの必要資金計算の違い

公的年金の受給開始は原則65歳です(厚生労働省の年金制度ページ参照)。60歳でリタイアした場合、65歳までの5年間は年金がありません。この「空白の5年間」をどう設計するかが、FIRA60の核心です。

総務省の家計調査(2023年)によると、65歳以上の無職夫婦世帯の消費支出は月約25.7万円、可処分所得(年金等)は月約22.2万円で、月約3.4万円の不足が生じています。

これをもとに、FIRA60の必要資金を概算すると2つの要素に分かれます。

期間 必要な備え 概算
60〜65歳(年金なし) 生活費の全額を資産で賄う 月25万円 × 60ヶ月 = 1,500万円
65歳〜(年金あり) 年金で足りない分を資産で補填 月3〜5万円の不足 × 運用しながら取り崩し

榊原氏が目安として示しているのは、純金融資産5,000万円程度です。ただしこの金額は、生活費・年金額・住居費・家族構成によって大きく変わります。

FIRA60の設計で特徴的なのは、年金を「収入の柱」として組み込む点です。FIREが資産収入だけで生きる設計であるのに対し、FIRA60は「60歳まで厚生年金に加入し続けることで、65歳以降の年金額を最大化する」という考え方が含まれています。

サイドFIREとFIRA60——設計思想がまったく違う

ここからが、この記事の核心です。

FIRA60とサイドFIREは、どちらも「完全FIREの4,500万円は現実的ではない」という問題意識から出発しています。しかし、その解決策の方向性がまるで異なります。

FIRA60 サイドFIRE
リタイアの時期 60歳前後 資産が基準に達した時点(年齢は問わない)
会社との関係 60歳まで会社に属する前提 会社を離れてフリーランス等で働く
年金の位置づけ リタイア後の収入の柱 将来のボーナス的な存在
必要資産の目安 約5,000万円(年金と組み合わせ) 約2,500〜3,000万円(配当+労働収入)
リタイア後の労働 原則なし 選択的に続ける(フリーランス等)
設計の核心 「辞めた後は働かない」ための資金計画 「辞めた後も選んで働く」ための自由設計

一番大きな違いは、「会社に属する期間」に対するスタンスです。

FIRA60は、60歳まで会社員として働くことを前提にしています。だからこそ厚生年金の加入期間が長くなり、65歳以降の年金額が大きくなる。社会保険も会社負担で賄える。これは合理的な設計です。

サイドFIREは、会社を辞める時期を「資産の到達点」で決めます。40代でも30代でも、基準を満たせばリタイアする。その代わり、年金の加入期間が短くなり、社会保険は自分で設計する必要がある。

どちらが「正しい」かではなく、「会社にいることをどう感じているか」で分かれる選択です。

40代の選択フローチャート FIRA60 vs サイドFIRE

私がFIRA60ではなくサイドFIREを選んだ理由

FIRA60の設計を知ったとき、「理にかなっている」と思いました。年金を組み込むことで必要資産が現実的な範囲に収まるし、社会保険のコストも会社が半分負担してくれる。計算上は合理的です。

それでも私はサイドFIREを選びました。理由は2つあります。

1つ目は、「60歳まで待てなかった」ということです。

私が会社を辞めたかった理由は、仕事が嫌だったことではありません。時間を自分で決められないことでした。月曜の朝に鳴る目覚ましの音が嫌だった。その生活を60歳まで続ける選択は、私にはできませんでした。

配当月16万円が生活費月15万円を超えるラインに達したとき、「今なら辞められる」と思いました。40代です。FIRA60なら、あと15年以上会社にいることになる。その15年の時間と、今すぐ手に入る自由を天秤にかけて、自由のほうを取りました。

2つ目は、退職後も「選んで働く」ことに価値を感じていたからです。

FIRA60は「辞めた後は働かない」設計です。でもセミリタイアとサイドFIREの違いを整理した記事でも書きましたが、サイドFIRE6年目の今、週3日のフリーランスは単なる収入源ではなくなっています。「今日、社会の中で何かをした」と感じられる場所として機能している。完全に仕事をやめたいのではなく、仕事量と時間を自分で決めたかったのです。

退職前にフリーランスの業務委託契約を結んでいたことも大きかったです。「辞めてから探す」ではなく「辞める前に確保する」——この順序がなければ、踏み切れなかったと思います。

結果として、資産3,000万円で退職し、フリーランス収入を全額投資に回す構造にしたことで、サイドFIRE自体が資産形成を加速させる仕組みになりました。

ただし、これはDINKs・地方都市・生活費月15万円という条件があってこその数字です。条件が違えば、FIRA60のほうが合理的な選択になるケースも十分にあります。

FIRA60が向いている人、サイドFIREが向いている人

FIRA60とサイドFIRE、条件が違えば答えが変わります。

FIRA60が向いているケース

  • 今の会社や仕事に大きな不満はなく、60歳まで続けることが現実的
  • 厚生年金の受給額を最大化したい(加入期間が長いほど受給額が増える)
  • リタイア後は完全に仕事から離れたい
  • 40代の今、資産形成がまだ途中で、あと15〜20年の積み上げ期間が必要
  • 子育て中で、教育費の支出が終わるまで安定収入を維持したい

サイドFIREが向いているケース

  • 時間のコントロールを取り戻すことが最優先
  • 配当や資産収入が生活費の相当部分をカバーできる水準に近づいている
  • フリーランスや副業として活かせるスキル・経験がある
  • 「完全に仕事を辞めたい」のではなく「働き方を変えたい」
  • 60歳まで待つことに、人生の時間を使いすぎると感じている

FIREの種類ごとの設計の違いは、バリスタFIREとサイドFIREの比較記事でも整理しています。「サイドFIRE」「バリスタFIRE」「FIRA60」——それぞれの設計は、リタイアの時期・労働のスタンス・年金の使い方で大きく変わります。

私自身の体験を振り返ると、FIRA60を選ばなかった最大の理由は「あと15年、会社に時間を渡すこと」に対する抵抗感でした。配当月16万円という数字が背中を押してくれた。でもあの数字がなければ、FIRA60を選んでいたかもしれません。

あなたにとって、「60歳まで待つこと」の重さは、どのくらいでしょうか。

※この記事の内容は筆者個人の体験に基づくものであり、特定の投資行動や退職判断を推奨するものではありません。FIRA60の概念は榊原正幸氏の著作に基づきますが、本記事は同氏の公式見解を代弁するものではありません。年金制度・税制・社会保険の内容は変更される可能性があります。最新の情報は各公式サイトや専門家にご確認ください。

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