55〜83万円の節税を逃した話
会社を辞めてフリーランスになったとき、iDeCoの掛金上限が月2.3万円から月6.8万円に上がることは知っていました。
知っていたのに、2年間何もしませんでした。
理由は2つあります。ひとつは「めんどくさかった」。もうひとつは「収入の見通しが立たなくて、手元の現金を減らしたくなかった」。どちらも気持ちとしてはわかります。当時の自分に聞いたら、たぶん「そのうちやる」と答えたと思います。

結果どうなったか。iDeCoだけで年間54万円の所得控除の差分を、まるまる2年分逃しました。
小規模企業共済のほうはもっとひどくて、存在すら知りませんでした。3年目に税理士に教えてもらって初めて加入しています。こちらは年間最大84万円の所得控除です。
2年間で逃した控除額は合計276万円。節税効果に換算すると55〜83万円。所得税率によって幅がありますが、どちらにしてもかなりの金額です。
この記事は、そのときの自分に渡したかったチェックリストです。
退職前の税金対策チェックリスト【時系列順】
退職3ヶ月前から翌年の確定申告まで、時系列で並べました。全部をやる必要はありません。自分に当てはまるものだけチェックすれば大丈夫です。
退職3ヶ月前|制度を「知る」フェーズ
1. iDeCoの掛金上限を確認する
会社員、公務員、自営業、フリーランスで掛金の上限が変わります。
- 会社員(企業年金なし): 月2.3万円(年27.6万円)
- 自営業・フリーランス: 月6.8万円(年81.6万円)
- 掛金は全額が所得控除の対象
退職後にフリーランスになる場合、上限が大きく上がります。私はこの変更手続きを2年間放置しました。放置した理由は「収入が不安定だから手元に現金を残したい」でしたが、掛金は月5,000円から設定できます。満額でなくても始めておけばよかった、というのが今の実感です。
iDeCoの制度詳細はiDeCo公式サイト(国民年金基金連合会)で確認できます。
2. 小規模企業共済を知っているか確認する
フリーランス・個人事業主向けの退職金制度です。
- 掛金: 月1,000円〜70,000円(年間最大84万円)
- 掛金は全額が所得控除の対象
- 受取時は退職所得控除 or 公的年金等控除が使える

私はこの制度を退職後3年目まで知りませんでした。年間84万円の控除が2年分。税理士に「これ、なんで入ってないんですか?」と言われたときの気まずさは今でも覚えています。
制度の詳細は中小機構の小規模企業共済ページで確認できます。
3. 退職する年の「ふるさと納税の上限」を計算し直す
退職すると、その年の給与所得が減ります。ふるさと納税の控除上限額は年収に連動するので、退職年はいつもの感覚で寄付すると自己負担が増えるケースがあります。
退職月が早いほど年収の減少幅が大きいです。退職が決まった時点で、その年の見込み年収でシミュレーションをやり直しておくと安全です。
退職1ヶ月前|手続きを「始める」フェーズ
4. 企業型DCからiDeCoへの移換スケジュールを確認する
企業型確定拠出年金(DC)に加入している場合、退職後6ヶ月以内にiDeCoへ移換しないと、資産が国民年金基金連合会に自動移換されます。自動移換されると手数料が引かれ、運用もされません。
6ヶ月の猶予があるように見えますが、iDeCoの口座開設には1〜2ヶ月かかります。退職後に「やろう」と思ってからでは間に合わない場合があります。退職前に運営管理機関(証券会社)を決めて、資料請求だけでも済ませておくのが現実的です。
5. 退職金の受け取り方を決める
一時金で受け取るか、年金形式で受け取るか。税金の計算が変わります。
- 一時金: 退職所得控除が使える(勤続年数で控除額が決まる)
- 年金形式: 公的年金等控除が使える(他の年金収入との合算)
勤続20年で一時金の場合、退職所得控除は800万円です(40万円×20年)。退職金がこの範囲内なら課税されません。自分の勤続年数と退職金の額で、どちらが有利か事前に計算しておくと慌てずに済みます。
退職直後〜年末|「切り替え」フェーズ
6. 国民年金の付加年金に月400円を上乗せする
フリーランスになると国民年金に切り替わります。そのとき、月400円の付加年金を上乗せできます。
2年以上受給すれば元が取れる計算で、利回りだけ見ると破格です。私はiDeCoの手続きと一緒にまとめてやりました。ただし、国民年金基金に加入する場合は併用できません。
7. 健康保険の選択肢を比較する
退職後の健康保険は主に3つ。任意継続(最大2年)、国民健康保険、家族の扶養。
退職直後は前年の所得で国保が計算されるので、会社員時代の年収が高かった場合、国保がかなり高額になります。私の場合、最初の年は任意継続のほうが安かったです。
退職後の健保選択については「国民健康保険が高すぎる理由と最新制度」で、国保の減額制度や計算方法を整理しています。
8. 開業届と青色申告承認申請書を出す
フリーランスとして事業を始めるなら、開業届と青色申告承認申請書を税務署に出します。
青色申告の最大65万円の特別控除を受けるには、申請書の提出が必要です。開業日から2ヶ月以内、もしくはその年の3月15日までに出す必要があるので、退職後すぐに動いたほうがいいです。私は退職翌週に出しました。複式簿記が必要になりますが、会計ソフトを使えばそこまで大変ではありません。
翌年1〜3月|「回収」フェーズ
9. 退職した年の確定申告をする
会社員時代の所得は年末調整されていますが、年の途中で退職した場合、年末調整がされていない可能性があります。確定申告をすれば、過払いの所得税が還付されることがあります。
退職金がある場合は「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していたか確認しておいたほうがいいです。提出していれば退職金は源泉徴収で完結しますが、未提出だと20.42%が一律で源泉徴収されているので、確定申告で精算が必要になります。
10. 退職後に支払った社会保険料の控除を忘れない
退職後に自分で支払った国民年金保険料、国民健康保険料は、確定申告で社会保険料控除の対象になります。
年末調整されていない期間の社会保険料は、自分で申告しないと控除されません。私は最初の確定申告でこれを忘れかけて、税理士に指摘されました。支払い証明書が届いたら保管しておくのが鉄則です。
チェックリストの裏にある、もうひとつの話
ここまで10項目を並べました。正直なところ、どれも検索すれば出てくる情報です。iDeCoの上限も、小規模企業共済の存在も、退職所得控除の計算も、国税庁のサイトに全部書いてあります。
私が2年間動けなかった理由は、情報がなかったからではありません。

「制度を知ること」と「手続きをすること」の間には、思っているより距離がありました。iDeCoの上限変更は、ネット証券のマイページから書類を取り寄せて、届いた書類に記入して、返送して、反映を待つ。それだけのことです。たぶん1時間もかからない。でもその1時間を、2年間やらなかった。
めんどくさい。今じゃなくてもいい。来月やればいい。収入が安定してからでいい。
そうやって先送りした結果が、55〜83万円です。
3年目にようやく全制度に加入して、フル活用で確定申告をしたとき、景色が変わりました。所得控除の合計額が跳ね上がって、国保の保険料も下がりました。「なんでもっと早くやらなかったんだろう」という後悔は、もう取り返しがつきません。
この税金の後悔について詳しく書いた記事があります。「サイドFIRE後悔:税金(iDeCo・小規模企業共済)」では、2年間動けなかった心理と、3年目以降にどう変わったかを具体的に書いています。
退職前の1時間が、退職後の数十万円を決める
このチェックリストで伝えたかったのは、制度の詳細ではありません。
「知っている」と「やっている」は違う、ということです。
退職前後は環境が激変します。収入が不安定になり、手続きが山のように降ってきて、「税金のことは落ち着いてからやろう」と思います。私がそうでした。そして「落ち着いてから」は、2年後に税理士に指摘されるまで来ませんでした。
退職前の、まだ余裕があるうちに。このチェックリストを上から順に見て、自分に当てはまるものだけ手をつけてみてください。1時間あれば、少なくとも「何をやるべきか」は把握できます。
全部を完璧にやる必要はありません。1つでも退職前に動いておけば、それだけで退職後の自分が楽になります。
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