退職後の健康保険、任意継続と国保と扶養どれがいい?FIRE経験者が解説

会社を辞めたあと、健康保険をどうするか。

退職届を出してから調べ始めた。遅い。でも、たぶん多くの人がそうだと思います。給料から天引きされていた社会保険は、自分で手続きするものだという認識すらなかった。辞めた翌日から「無保険」になるという事実を知ったのは、退職の2週間前でした。

慌ててネットで調べると、選択肢は3つ。任意継続、国民健康保険(国保)、家族の扶養。どの記事を読んでも「それぞれメリット・デメリットがあります」で終わっていて、結局どれを選べばいいのかわからない。

しかも、自分のようにFIRE(早期リタイア)して配当収入やフリーランス収入がある場合、一般的な「転職するまでのつなぎ」とはまるで前提が違う。この記事は、退職後に会社員に戻らない人のための健康保険ガイドです。

結論を先に書きます。退職後の健康保険は、あなたの退職後の収入構成で答えが変わります。「どれが一番安い?」ではなく、「自分の収入はどう構成されているか?」から逆算してください。

目次

3つの選択肢を30秒で理解する

退職後の健康保険は、以下の3択です。それぞれの特徴をざっくり掴んでから、詳しい比較に入ります。

退職後の健康保険3択比較表(任意継続・国保・扶養)
任意継続・国保・扶養の3択を一目で比較

① 任意継続(任意継続被保険者制度)

退職前の会社の健康保険に、最長2年間そのまま入り続ける制度。会社が半分負担してくれていた保険料を全額自己負担するため、在職時の約2倍になります。ただし上限があり、標準報酬月額30万円(2024年度、全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合)が上限です。年収が高かった人ほど、この上限が効いて割安になる仕組みです。

申請期限:退職日の翌日から20日以内。この期限を1日でも過ぎると加入できません。

② 国民健康保険(国保)

自治体が運営する健康保険。会社員以外の人が入るものです。保険料は前年の所得をベースに計算されるため、退職1年目は在職中の高い年収で計算されて保険料も高くなりがちです。

届出期限:退職日の翌日から14日以内。届出が遅れても届出日からではなく資格取得日(退職翌日)に遡って加入になるため、未届け期間の保険料も請求されます。

③ 家族の扶養に入る

配偶者や親が会社員で健康保険に加入している場合、その扶養に入れば保険料はゼロです。ただし条件があり、被扶養者の年収が130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)でなければなりません。

手続きは扶養者(配偶者や親)の勤務先経由で行います。

比較表:3つの選択肢を並べる

任意継続 国保 扶養
保険料 退職時の標準報酬月額 × 保険料率(全額自己負担)。上限あり 前年所得ベース。自治体で料率が異なる 0円
加入期間 最長2年 制限なし 条件を満たす限り
扶養制度 あり(家族を扶養に入れられる) なし(家族も個別に加入)
申請期限 退職翌日から20日以内 退職翌日から14日以内 扶養者の勤務先に届出
保険料の変動 2年間固定 毎年変動(前年所得で再計算) なし
給付内容 在職時と同等 自治体により異なる(付加給付なし) 扶養者の保険と同等

この表だけ見ると「扶養に入れるなら扶養一択」に見えます。実際そのとおりです。問題は、扶養に入れない人がどう選ぶか、です。

年収別の保険料シミュレーション

具体的な金額がないと判断できないので、退職前の年収別に保険料の目安を出します。あくまで概算です。実際の金額は健康保険組合や自治体によって異なります。

前提条件

  • 協会けんぽ加入(保険料率は東京都の場合、2024年度は約10%)
  • 国保は東京都世田谷区を例に概算(2024年度の場合、所得割率:医療分7.16%+支援分2.28%=約9.44%。均等割あり)
  • 40歳以上の場合は介護保険分が加算されるが、ここでは省略
  • 扶養家族なし(単身)で計算

退職前の年収300万円の場合

任意継続(月額) 国保・1年目(月額)
概算保険料 約25,000円 約15,000〜20,000円

年収300万円なら、国保のほうが安くなるケースが多いです。任意継続の上限(標準報酬月額30万円)にも届かないため、任意継続のメリットは薄い。

退職前の年収400万円の場合

任意継続(月額) 国保・1年目(月額)
概算保険料 約30,000円 約22,000〜28,000円

この価格帯では任意継続と国保がほぼ拮抗します。家族を扶養に入れたい場合は任意継続が有利です(国保には扶養の概念がなく、家族も個別に加入が必要)。

退職前の年収500万円以上の場合

任意継続(月額) 国保・1年目(月額)
概算保険料 約30,000円(上限で頭打ち) 約30,000〜40,000円

年収が高い人ほど、任意継続の「上限」が効きます。年収500万円を超えると任意継続のほうが安くなるケースが増える。退職1年目の保険料だけで見れば、任意継続は「年収が高かった人のセーフティネット」です。

※上記はあくまで概算です。正確な保険料は、任意継続の場合は加入していた健康保険組合、国保の場合は各自治体の窓口で確認してください。

FIRE・セミリタイアの人はここが違う

ここからが、この記事の本題です。

一般的な転職・退職の記事は「次の会社に入るまでのつなぎ」として健康保険を語ります。でも、FIRE後やセミリタイア後は、会社の健康保険に戻ることを前提にしていない。つまり、国保と長期間付き合う前提で選ぶ必要があるということです。

そして、FIRE後の収入には会社員時代にはなかった特徴が2つあります。

特徴①:配当所得が国保の算定に影響する

配当金を受け取っている人は多いと思います。ここで問題になるのが、確定申告の方式です。

上場株式の配当は、受け取り時に源泉徴収(約20%)されているため、確定申告しなくても問題ありません。これが「申告不要制度」です。

一方、総合課税で確定申告すると配当控除が使えるため、所得税を取り戻せるケースがあります。特に課税所得が330万円以下の場合、総合課税のほうが税率が低くなるため得をする場面がある。

ところが、ここに落とし穴があります。

総合課税で申告すると、その配当所得が国保の算定基礎に加算されます。税金は得をしたのに、国保料が跳ね上がるという逆転現象が起きる。

たとえば配当所得が年間100万円ある場合、総合課税で申告すると国保の所得割が(所得割率を約10%とすると)年間約10万円上がる計算です。配当控除で取り戻せる税額と、国保の増額分を天秤にかける必要があります。

注意:2024年度の住民税(2023年分の所得)から、上場株式の配当所得について、所得税と住民税で異なる課税方式を選ぶことができなくなりました(令和4年度税制改正)。以前は「所得税は総合課税、住民税は申告不要」を選んで国保への影響を回避する手法がありましたが、現在はこの方法は使えません。申告方式にかかわらず国保算定に含まれる方向に制度が動いています。最新の取り扱いは各自治体に確認してください。

特徴②:事業所得の経費と控除で国保料を下げられる

フリーランスとして事業所得がある場合、国保の保険料を合法的に下げる方法があります。国保の所得割は以下の式で計算されます。

(前年の総所得金額 − 基礎控除43万円)× 所得割率

ここで言う「総所得金額」には、事業所得の場合は経費を引いた後の金額が入ります。さらに、以下の所得控除は総所得から差し引かれるため、国保料の算定基礎を直接下げる効果があります。

  • iDeCo(個人型確定拠出年金):掛金が全額所得控除。フリーランスの場合、月額最大68,000円(年間816,000円)
  • 小規模企業共済:掛金が全額所得控除。月額最大70,000円(年間840,000円)

この2つをフルに使うと、年間約165万円の所得控除になります。仮に事業所得が400万円だとすると、控除前の国保算定基礎は約357万円(400万−43万)ですが、iDeCoと小規模企業共済を満額掛けると約192万円(400万−43万−81.6万−84万)まで下がる。所得割率を10%とすると、年間の国保料が約16万円も変わる計算です。

フリーランス1年目、国保料の通知を見て「年間50万円近い」と驚いた記憶があります。前年の会社員時代の年収がそのまま反映されるから当然なのですが、金額のインパクトは大きかった。iDeCoと小規模企業共済を始めてから、目に見えて保険料が下がっていきました。

ケース別の推奨:条件で答えは変わる

ここまでの情報を踏まえて、条件別に「自分ならこう選ぶ」をまとめます。投資判断と同じで、正解は人によって違います。あくまで判断の軸として読んでください。

ケース1:扶養に入れる人 → 扶養一択

配偶者や親が会社員で、自分の年収が130万円未満に収まるなら、扶養に入ってください。保険料ゼロは最強です。これに勝てる選択肢はありません。

ただし、配当所得やフリーランス収入がある場合、「年収130万円未満」のラインを超えていないか確認が必要です。130万円の判定基準は保険組合によって異なるため、扶養者の勤務先の健康保険組合に事前に問い合わせてください。

ケース2:退職翌年の所得がまだ高い人 → 任意継続

退職1年目は、前年(在職中)の高い年収で国保が計算されます。年収500万円以上だった人は、任意継続のほうが保険料の負担が軽いケースが多い。

任意継続の保険料は2年間固定です。1年目は任意継続のほうが安くても、2年目に入ると国保の算定基礎が「退職後の低い所得」に切り替わるため、逆転する可能性があります。

2年目の切り替え判断:任意継続は、以前は2年間の途中脱退ができませんでした。しかし2022年1月の健康保険法改正により、任意継続被保険者が申出により脱退できるようになっています。2年目に入る前に国保の保険料を試算し、国保のほうが割安なら脱退して切り替えるのが合理的です。

ケース3:FIRE後に所得控除をフル活用する人 → 国保が2年目から有利

iDeCo、小規模企業共済、ふるさと納税(住民税控除経由)などの所得控除をフルに使える人は、2年目以降の国保料を大幅に圧縮できます。

1年目は前年の会社員年収が反映されるため高くなりますが、2年目以降は「退職後の所得 − 各種控除」で算定されるため、場合によっては月1万円台まで下がります。

長期で見れば国保のほうがトータルコストが低くなるケースが多い。特に、配当所得を申告不要にできて、事業所得は経費と控除で圧縮できる人にとっては、国保は「使いこなせば安い保険」です。

ケース4:配当所得が中心の人 → 慎重に試算を

配当所得が主な収入源の場合、確定申告の方式によって国保料が大きく変わります。前述のとおり、2024年度以降は所得税と住民税で異なる課税方式を選べなくなっているため、「総合課税で配当控除を受けつつ国保算定から外す」という手法は使えません。

配当所得の金額と、国保料への影響を具体的に試算してから判断してください。自治体の窓口で「前年の所得がこの金額の場合、国保料はいくらになりますか」と聞けば教えてくれます。

手続きタイムライン:退職日から逆算する

手続きには期限があります。特に任意継続の20日ルールは厳格です。退職日が決まったら、以下のスケジュールで動いてください。

退職日の2週間前

  • 任意継続の保険料を確認する(会社の人事部 or 健康保険組合に問い合わせ)
  • 国保の保険料を概算する(自治体の窓口 or ウェブサイトで試算)
  • 扶養に入れるか確認する(配偶者の勤務先の健康保険組合に確認)
  • 3つの金額を比較して、どれにするか決める

退職日

  • 健康保険証を会社に返却する
  • 「健康保険資格喪失証明書」を受け取る(国保の手続きに必要)

退職翌日〜14日以内

  • 国保を選ぶ場合:市区町村の窓口で加入手続き。持ち物は資格喪失証明書、マイナンバーカード(or 通知カード+本人確認書類)、印鑑

退職翌日〜20日以内

  • 任意継続を選ぶ場合:加入していた健康保険組合(協会けんぽの場合は最寄りの年金事務所)に申請書を提出

扶養を選ぶ場合

  • 扶養者の勤務先に届出。期限は保険組合の規定によるが、退職後速やかに手続きするのが原則

14日・20日という期限は、「退職後にゆっくり調べよう」と思っていると間に合いません。退職前に決めておくのが鉄則です。

自分は国保を選んだ

自分の場合を書きます。

DINKs(夫婦2人暮らし)で、配偶者も自営業だったため、扶養に入るという選択肢はそもそもありませんでした。

任意継続と国保を比較して、1年目は任意継続のほうがやや低かった。でも、国保を選びました。理由は2つです。

1つ目は、2年目以降の保険料が見通せたから。退職後はフリーランス収入がメインになる予定で、iDeCoと小規模企業共済を始める計画がありました。所得控除で国保の算定基礎を下げれば、2年目以降は任意継続より確実に安くなると計算できた。

2つ目は、任意継続の「2年しばり」が嫌だったから。当時はまだ途中脱退ができない制度だったので(2022年の法改正前)、2年間ロックされるリスクを避けたかった。

結果的に、1年目は国保料が高くてきつかったけれど、2年目からは所得控除が効いて月額が大幅に下がりました。長期で見れば、この判断は正しかったと思っています。

退職前に「税金と社会保険の準備」は完全に盲点でした。給料から引かれていたものを自分で払う生活は、金額の大きさもさることながら、「自分で調べて、自分で選んで、自分で手続きする」というプロセスそのものが重い。

この記事が、退職前のあなたに届いていることを願っています。辞めてから慌てて調べた自分のようにはならないでください。

まとめ

退職後の健康保険は「どれが一番安いか」ではなく、「自分の収入構成に合っているか」で選ぶものです。

  • 扶養に入れるなら扶養。保険料ゼロに勝てる選択肢はない
  • 退職翌年の所得が高いなら任意継続。上限があるので割安になる。ただし2年目に国保と比較すること
  • FIRE後に所得控除を使いこなせるなら国保。iDeCo・小規模企業共済で算定基礎を下げれば、2年目以降のコストを大幅に圧縮できる
  • 配当所得が多い人は、確定申告の方式と国保料の関係を必ず試算する。2024年度以降の制度変更にも注意

手続きの期限(任意継続は20日以内、国保は14日以内)は退職前に把握しておくこと。退職してから調べ始めると間に合いません。

健康保険は、退職後の生活コストの中で家賃の次に大きな固定費になり得ます。「辞めてからでいいや」ではなく、退職前に比較・試算して、自分に合った選択肢を選んでください。

※この記事は筆者の個人的な体験と調査に基づいています。制度の詳細や保険料の正確な金額は、加入先の健康保険組合や各自治体の窓口にお問い合わせください。

参考リンク

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